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注目される脂質エステル化ビタミンC、VCIP、APPS

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1,アスコルビン酸誘導体

水溶性の抗酸化ビタミンとして知られるアスコルビン酸(ビタミンC)に比較的分子量の大きいアシルをエステル結合しアスコルビン酸のハイドロフォビシティーをコントロールすることにより皮脂バリア透過性を高めたり、オイルの抗酸化剤として利用しようとする試みは以前からあった。アスコルビン酸に脂溶性のエステルを修飾すると、アスコルビン酸誘導体中に水溶性部分と脂溶性部分が同時に存在することになり界面活性作用をもつアスコルビン酸誘導体が合成可能である。また、誘導体中の脂溶性部分をより大きくすることによりオイルへの溶解度を高めることができ或は水以外の溶剤に溶けるアスコルビン酸誘導体も合成可能である。ここでは、エステルの付加により親水性を低下させたアスコルビン酸誘導体を便宜的に“脂溶性アスコルビン酸”と称し最近の開発動向について解説する。

2,既存のアスコルビン酸誘導体

アスコルビン酸の構造式を図1に示す。又、化粧品で使用される可能性のある既知のアスコルビン酸誘導体を化粧品工業連合会の表示名称リストから抜粋したものを表1に示す。

アスコルビン酸の抗酸化活性は2位及び3位の-OHが最も強く、従ってこの位置の-OHが最も酸化されやすい。特に2位の-OHをエステルで化学修飾することによりアスコルビン酸の安定性を飛躍的に向上させることができる。2位が修飾されたアスコルビン酸

(図1、アスコルビン酸の構造式)

 

(表1、化粧品リストに登録されているビタミンC誘導体)

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(脂溶性誘導体)

6-ステアリン酸アスコルビル

6-パルミチン酸アスコルビル

2,6-ジパルミチン酸アスコルビル

2,3,5,6-テトラヘキシルデカン酸アスコルビル

(アスコルビル/トコフェリル)リン酸K

(水溶性誘導体)

アスコルビン酸-2-硫酸2Na

アスコルビン酸Na

アスコルビン酸-2-リン酸Mg(部外品成分)

アスコルビン酸-2-リン酸Na(部外品成分)

アスコルビル-2-グルコシド (部外品成分)

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誘導体は、3位や6位の修飾されたアスコルビン酸に比し酸化を受けにくく化粧品に配合した場合にアスコルビン酸に起因する経時的な着色や力価低下などの問題を回避できる。既存のアスコルビン酸の誘導体のほとんどが2位のエステル誘導体であるのはこのためである。2位が化学修飾されたアスコルビン酸を使用する際注意したいのは、エステル結合が生体内で加水分解され十分な量のアスコルビン酸が生成可能かどうかという点である。当初新規の美白剤として開発されたアスコルビン酸-2-硫酸塩は、製剤中で安定性の高い化粧品原料として比較的古くから利用されていたがヒトの皮膚内に硫酸エステルを加水分解する酵素がほとんど無いことが判明したため使用されなくなった。医薬品原料と異なり化粧品原料における新規のアスコルビン酸誘導体の開発では第一に安全性と製剤中での安定性が評価されるためヒトの皮膚内でのアスコルビン酸活性についてはないがしろにされやすい傾向にある。今後の新規誘導体の開発においては効果についても十分に比較検討する必要がある。

3,既存の脂溶性アスコルビン酸誘導体

6-ステアリン酸アスコルビル、6-パルミチン酸アスコルビル、2,6-ジパルミチン酸アスコルビルは化粧品のクリームや乳液の抗酸化成分として従来から使用されているなじみの深い成分で化粧品用途以外にも6-ステアリン酸アスコルビル、6-パルミチン酸アスコルビルは食品添加物として食油の抗酸化剤として使われている。「日焼けによるシミ、そばかすをふせぐ」予防効果のある医薬部外品成分については表1では(部外品成分)と記した。脂溶性アスコルビン酸誘導体で医薬部外品の主成分として使用されているものは今のところ無い。これは効果が水溶性アスコルビン酸誘導体よりも劣るということではなく化粧品剤形の市場性と医薬部外品の開発コストの問題によるものと考えられる。脂溶性アスコルビン酸を化粧品等の外用剤に応用する目的は以下のような理由が考えられる。

1)  酸化作用の強い2位を化学修飾することによりアスコルビン酸の製剤中での安定性を向上させる。

2)          脂溶性にする事により皮膚の皮脂バリア透過率を向上させる。

3)          オイルや油溶性基材の抗酸化剤として使う。

2)の水溶性のアスコルビン酸を脂溶性エステルにする事により皮膚の皮脂バリアの透過性を向上させる試みに関しては一概にその効果を期待できないという報告もある。図2は水溶性のアスコルビン酸―2−リン酸Mg(APM)のローションとアスコルビン酸-2,6-ジパルミチン酸エステル(ADP)の無水油型軟膏をモルモットの皮膚へ塗布し肝臓へのアスコルビン酸の移行量を比較したものである。この結果からは、脂溶性の誘導体であるアスコルビン酸ジパルミチン酸エステル(ADP)の吸収効率での優位性は見られない1)。皮膚への吸収性は分子の表面電位が重要であるとの報告もあり誘導体が脂溶性か水溶性かという単純な区分けでは判断できないより複雑なメカニズムが働いていると考えられる。

(図2)アスコルビン酸―2−リン酸Mg(APM)のローションとアスコルビン酸-2,6-ジパルミチン酸エステル(ADP)の無水油型軟膏をモルモットの皮膚へ塗布し肝臓のアスコルビン酸量を測定した。

水溶性のアスコルビン酸誘導体でもリン脂質製剤化する事により皮膚吸収率を向上できる。アスコルビン酸―2−リン酸Mg塩をリン脂質製剤化することにより皮膚内アスコルビン酸濃度を従来の3倍に高濃度化できることも報告されている2)

以下近年開発された又は開発中の主要な脂溶性アスコルビン酸誘導体について、特許、学会発表、文献等からその概要について紹介する。

3,アスコルビン酸イソパルミチン酸エステル

(図3)アスコルビン酸イソパルミチン酸エステル

 油溶性のプロビタミンCには、パルミチン酸型、ジパルミチン酸型、ステアリン酸型、イソパルミチン酸型、ビタミンE型といったものがある。
 日本では以前からパルミチン酸型とステアリン酸型の2つがクリームや乳液などに用いられてきた。
 それに対して海外ではピュアなビタミンCが中心で、プロビタミンCはほとんど注目されることはなかったが、最近、パルミチン酸型のプロビタミンCが、アメリカでエステルCという名前で大ブレイクしている。
 ただ、品質という点では難があるのは確かで、パルミチン酸型のプロビタミンCが配合された化粧品は、店頭に置かれた状態で数ヶ月のうちに黄色く変色してしまうことがあり、ステアリン酸型も同様で、安定性がよくないため変質しやすく、また室温で液状ではないので使用した感触が非常に重いというのも問題である。
これらの不安定な性質は、パルミチン酸型やステアリン酸がビタミンCのもっとも還元作用の強いところに修飾されていないという問題からおきている。また、これらのエステルが加水分解されやすいということも原因の一つになっている。
 また、最近、アメリカの研究者の報告でパルミチン酸型のビタミンCが、かえって酸化を促進してしまうことが報告されている。ビタミンCはエステル化する位置が4つもあり、もっとも活性の強い場所にリン酸エステル化したのがリン酸型ビタミンCで、そのために安定な形になっている。
 従来のパルミチン酸型ビタミンCは、リン酸型ビタミンCのようにもっとも活性の強い場所にグローブが付いているのではなく、他の場所が修飾されているためにビタミンCが酸化しやすい。
 リン酸型ビタミンCと同じ位置にパルミチン酸をエステル修飾したジパルミチン酸型ビタミンCというものも使われているが、どういうわけかリン酸のグローブと異なり、パルミチン酸のグローブはすぐに外れてしまい、ビタミンCの安定化にはあまり役に立たないことがわかっている。そればかりでなく、一度グローブが外れてしまうと、ビタミンCがすみやかに酸化されて、その酸化型のビタミンCがある条件でパルミチン酸を酸化して脂質酸化物をつくり出し、その結果、肌に悪影響を与える懸念もある。
 また、ビタミンE型のプロビタミンCは一部のシャンプーなどに使用されているものの、エステル結合が強固で安定であるが皮膚で酵素分解されにくくヒトの肌ではビタミンCに変換されにくいため、ビタミンCとしての肌への効果はほとんど期待できないと考えられる。
イソパルミチン酸型のプロビタミンC(VCIP、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルともいう)はビタミンCの4つの場所全部にイソパルミチン酸がエステル修飾され、安定性がよく、室温で液状のオイルであるためオイルに溶けやすく肌への浸透性が高いという大きなメリットがあるが、浸透した誘導体が酵素的に加水分解されるかどうかは様々な議論がなされている。
2002年には、寺島らが油溶性のビタミンC誘導体であるイソパルミチン酸型ビタミンC(VCIP)にもリン酸型ビタミンCと同様にニキビに対して効果があることを報告している。

VCIPは、アスコルビン酸とイソパルミチン酸のテトラエステルで常温で液状のアスコルビン酸誘導体である(図3)。オリーブ油等の植物オイルとの相溶性に優れているため既にクリームや化粧オイル等に配合された商品が市販されている。アスコルビン酸イソパルミチン酸エステルの経皮吸収率は、通常のビタミンCより優れており、生体内でビタミンCとして活性を示すことも報告されている。具体的な効果としてメラニン産生抑制、生体脂質の過酸化防止、コラーゲン合成の促進、皮膚癌の転移抑制効果、紫外線(UV−B)による細胞障害の防御効果、マトリクスメタロプロテアーゼMMP-2及びMMP-9の抑制効果等が報告されている3)。 熱や酸化に対しても安定で、経時的な着色はあまりないといわれるがpHにより安定性は異なる。

4,トコフェリルアスコルビン酸類

水溶性のビタミンCと脂溶性のビタミンEを結合させた構造の誘導体は複数合成されているが、代表的なものとしてトコフェリルリン酸アスコルビン酸(EPC)がある。アスコルビン酸のエステル化の位置により異なるEPCが合成されるがL−アスコルビン酸の2位の水酸基とトコフェロールの水酸基がリン酸を介してエステル結合したリン酸ジエステル(図4)は、既に化粧品に応用されている4)。L−アスコルビン酸の2位のトコフェロールエステルの結合がヒトの酵素系では加水分解されにくい為か医薬部外品の美白主剤としての開発は行われなかった。しかし、その構造の持つ特殊性に由来する持続的ラジカルスカベンジング作用は心筋梗塞、心不全、不整脈、脳梗塞、脳卒中、腎不全などの虚血性臓器障害の予防、治療剤として医薬品としての臨床試験が進められている。虚血性臓器障害の他、白内障、更年期障害、抗炎症剤への応用も期待できるとしている。

L−アスコルビン酸の5位の水酸基とトコフェロールの水酸基がリン酸を介してエステル結合したリン酸ジエステル(図5)も合成されている5)。アスコルビン酸の2位の水酸基がフーになっているため従来型に比較し抗酸化性能が増強されているが反面安定性の点では劣ると考えられる。


(上から図4,図5,図6)

 

リン酸エステルを介さずトコフェロールが直接アスコルビン酸に結合しているタイプ(図6)もある。L−アスコルビン酸の3位の水酸基とトコフェロールの5位が結合した5a−トコフェリル−L−アスコルビン酸(特願平8−160628)である。酸素、熱及び光の酸化作用に対し優れた抗酸化作用を発揮し安定でビタミンEの吸収性が向上するとされている。
 5, L−アスコルビン酸-2-リン酸-6-パルミテート

従来のアスコルビン酸−2−リン酸エステルの6位がパルミチン酸エステルで修飾された誘導体である(図7)6)。アスコルビン酸やアスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム塩に比べ、L−アスコルビン酸-2-リン酸-6-パルミテートは、従来の誘導体に比べ1/10以下の低濃度で同等以上のアスコルビン酸の細胞内蓄積量が得られ、ビタミンCの効果を効率よく発揮できるという。つまり細胞内に取り込まれ易く、少量の投与量でも細胞内のアスコルビン酸蓄積濃度を高くすることができるということなのだ。

また、L−アスコルビン酸-2-リン酸-6-パルミテートは、MMP-9、 MMP-2の抑制作用やメラノーマB16BL6細胞の転移抑制作用なども報告されている7)。癌の転移抑制についてはアスコルビン酸5,6−ベンジリデン等に比較し低い細胞毒性で癌の転移を抑制することが特徴的であるという8)  また、エーリッヒ腹水腫細胞において温熱処理を併用すると通用のアスコルビン酸投与ではない高い癌細胞増殖抑制効果が認められたとしている9)。新しい脂溶性アスコルビン酸の中では安全性も高く生理学的な研究も進んでおり最も期待できるアスコルビン酸誘導体の一つであろう。

(図7)

参考文献

1) 小山ら、香粧会誌、vol.16,No.3,p141-148,1992
2) 坂ら、日本化学会第28春季年会講演予稿集、28,2000
3) 三羽ら、日本香粧品科学会講演要旨集、p56,2000
4)特開平2−111722
5)特開平9−165394
6)特開平10−298174
7) Liu JW, etc., Oncol Res 1999;11(10):479-87
8) Liu JW, etc., Anticancer Res 2000 Jan-Feb; 20 (1A):113-8
9) Kageyama,etc.,Anticancer Res 1999 Sep-Oct; 19(5B):4321-5

 

 
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